077053 ランダム
 HOME | DIARY | PROFILE 【フォローする】 【ログイン】

Lee-Byung-hun addicted

Lee-Byung-hun addicted

第5話

『Night and Day』 scene 5 

朝、ビョンホンが目覚めると揺は向かい側のソファで丸まって眠っていた。
寒かったのか赤いリボンを布団代わりにかけていた。
穏やかな寝顔を見ながらため息をついた。
そして頭をかきかき時計を見る。
「!!」
「揺、揺、大変乗り遅れちゃう。」
「なっ何?ビョンホンssi、どうしたの?」
寝ぼけた顔で揺が訊ねた。
「飛行機の時間、あと30分しかない」
「それ、もう乗り遅れてるのと一緒よ。今更焦ってもしょうがないわよ。しかも誰も起こしにこないところをみると気を利かせて夕方の便に変更してくれたんじゃない」
そういい終わると揺はまたうとうとと眠り始めた。
「全く良く眠れるよ。」
ビョンホンは笑った。
そしてマネージャーにスケジュール確認の電話を入れた。
やはり気を利かせたワンモ理事の指示で帰国の飛行機は夜の7時に変更されていた。
「夕方の5時までは自由時間だって。寝ぼすけのお姫様」
ビョンホンはうとうとしている揺にそう話しかけた。
「じゃあね。公園に行ってお弁当食べよう。」
揺は目をつぶったまま気持ち良さそうにそう言った。
「じゃ、新宿御苑行こうか」
「あれ、ビョンホンssi詳しいわね。大丈夫かな。見つからないかしら。」
揺はむくっと起き上がってあくびをするとワクワクした目で言った。
「お弁当は・・・あ、そうだ。あそこに頼もう」
揺はニヤッと笑った。


「えっ、何?お弁当二人前?とびっきり美味しいのがいい。全くしょうがないね。無断外泊の上に昼ごはんの出前まで注文しちゃって。帰ってきたらお仕置きだわね。」
不二子は笑いながら言った。
「じゃ、ヨロシクお昼前くらいに取りに行きます。は~い。」
「よし、これでOKと」
「揺、腹減ったよ。お前も食べるだろ。ルームサービス頼むから。」
「わ~。ルームサービスなんて久々だわ。やっぱり来てよかった。え~とね。私はカフェオレとね。カリカリベーコンとオムレツでしょ。それからクロワッサン。えっとね。それから・・・」
「お前本当に嬉しそうだな。」
ビョンホンは嬉しそうに笑った。
「だって今すっごく幸せなんだもん。毎日こんなのがいいなぁ~。あ、シャワー借りるね。注文ヨロシク」
そういうと揺はさっさとバスルームに消えた。
「・・・・」
ビョンホンは苦笑した。
揺はバスルームのドアを閉めると表情を一変させた。
彼女は実はさっきからずっと起きていた。
そしてビョンホンが優しいキスをして起こしてくれることを少し期待していた。
ただそれだけで頭の中にいっぱいのモヤモヤが一瞬にして消える気がしていた。
でも。
揺の頭の中は昨晩からいろいろなことでいっぱいで今にも爆発しそうだった。
・・・・今が幸せであればあるほど彼との別れがつらくなる。
そしてその時は目の前まで近づいていた。
彼にはいつも自由に、思うがままに何事にも臨めるような環境にいてほしいと願い続けてきた。
そしてその想いは今も変わらない。
そして自分もそうありたいと想い続けてきたつもりだった。
でも、朝目覚めて彼の顔を見て幸せを感じれば感じるほどどこかで彼に自分だけの彼でいてほしいと願う気持ちが強くなっていることに気づかざるを得なかった。
自分では今まであまり独占欲が強いと感じたことがなかっただけにそういう自分の姿を目の当たりにして実はとてもショックだった。
たぶんそんな気持ちが強くなると二人の関係はうまくいかなくなるだろう。
それは彼を独占することが不可能だから。
彼はみんなの彼である部分がとてつもなく大きくてその彼への愛を込みこみで愛せなければ彼との生活は有り得ないのだ。・・・・
正直今の揺は彼を自分らしく愛する自信を失いかけていた。
・・・・仕事に夢中になっている彼は大好きだったが、いざ自分の居場所がなくなってみると寂しくて仕方がなかった。
そうなることは良くわかっていた。
現にパリでは自分もそうだった。
そして彼を待たせていた。
だから誰よりも彼を理解できると思っていた。
なのに寂しくてたまらなかった。
でもそんな気持ちでいることを彼に言うことはしたくない。
きっと彼は私の居場所を作れない自分を責めているに違いなかったから。・・・
揺は自分でもコントロールが不能なほど彼を愛しているという事実を前に呆然としていた。
ただ彼女にとってはっきりしているのは今は彼を気持ちよく新しい現場に送り出したいという想いだけだった。
彼女は涙を熱いシャワーで洗い流した。
「とにかく今日は笑顔で。わかった!揺、しっかりねっ!」
そう鏡に話しかけると彼女はバスルームのドアを勢いよく開けた。

「ワンッ!」
トムクルが上機嫌に吠える。
「新宿御苑はペット不可だから・・・おとめ山公園で我慢して。」
お弁当の条件にトムクルの散歩を不二子から言い付かった揺は申し訳なさそうにビョンホンに言った。
「別にどこでもいいよ。揺と一緒なら。それにトムクルも一緒だしな。」
ビョンホンはそういうとトムクルに頬ずりした。
二人が向かったのはトメの家から程近い「おとめ山公園」
地元の閑静な公園としてそれなりに人気が高い。
広い芝生の広場はないが池があったり鬱蒼と茂る林があったり都心にもかかわらず多くの自然が残されている落ち着いた場所だった。
連休の中日。
多くの人は行楽地に遠出したのだろうか。
いいお天気にもかかわらず園内は込み合うこともなくのんびりとした空気が漂っていた。
二人はベンチに腰掛ける。
「揺。何で公園でお弁当なの?」
「ん?何でかな。ほら、お天気もいいし。何か今の私たちにはお日様の光が必要な気がしたのよ。」
「ふ~ん。何で?」
「何で、って。貴方はほら、夕べもうエネルギー放出しまくっちゃったでしょ。だから充電しないといけないんじゃないかと思って。」
「揺は?」
「私は・・・・」
揺が答えようとしたとき、通りがかりの犬がトムクルにちょっかいを出した。
吠えあう二匹。
「ほら、ダメ。トムクル。大丈夫だから。ね。」
気の荒い犬が通り過ぎるまで揺はトムクルを抱きしめていた。
そんな揺を見つめながらビョンホンがいつになく二人の気持ちがかみ合っていないように感じていた。
いつもなら手に取るようにわかる彼女の気持ちが薄ぼんやりと膜がかかっている気がした。
トムクルと揺は近くって、自分とトムクルも近い。
なのに何で揺と自分が遠いのか・・・・。
「さ、お弁当食べようか。わっ、よくあんな短い時間でこんなの作れるわね。」
不二子のお手製のお弁当には色とりどりの変わりおにぎりと彩のいいおかずがたくさん入っていた。
「ビョンホンssi、いっぱい食べてね。」
「うん。すごく美味いよ。」
気持ちよくパクパクとお弁当を平らげていく彼を見つめながら揺は複雑な想いで胸がいっぱいだった。
今日彼は韓国に帰り、私は数日後アフリカに旅立つ。
そして3ヶ月は話すことも会うこともないだろう。
こんな何だかわからない気持ちのまま彼から離れて自分は大丈夫なんだろうか。
それに実は自分の気持ちにうろたえて以来、いつも手に取るようにわかる彼の気持ちもすっかり見えなくなっていた。
昨日スタンドにいた時はとっても近く感じたのに。
近くにいるのに今の彼はとても遠かった。
高菜の混ぜられた緑のおにぎりを彼に手渡しながら彼との距離ばかりが気になっていた。
「揺も食べなよ。」
ビョンホンがおにぎりをほおばりながら言った。
「うん。」
そう返事をしたものの胸が何だか苦しくて手に取った梅干のおにぎりがとてつもなく大きく感じる。
それでも揺は必死で食べた。
食べないとまた前のように彼の前で泣きじゃくってしまいそうだった。
あの時は彼に甘えてもいい気がしていた。
でも今日は彼を引き戻すわけには行かない。
私が泣いてすがったら彼はきっと悩むだろう。
だからすがらない。
そのためにアフリカ行きだって決めたんじゃない。
揺。ほら、ちゃんと食べて。
揺は自分に言い聞かせた。

隣には黙っておにぎりを食べ続ける揺がいた。
明らかにいつもの彼女とは違っていた。
必死で何かをこらえている感じがした。
きっとまた僕のことを心配して甘えることなく突っ張っているに違いない。
抱きしめて甘えて良いんだといったらどんなにお互い幸せだろう。
・・・でも抱きしめてその後僕は無責任にソウルに帰り彼女を顧みることなく仕事に没頭するのだ。
これから先もずっと僕が仕事に没頭するたびに彼女はこうして我慢して涙も見せずにおにぎりをほおばるのだろう。
それで揺は幸せなのだろうか。
揺がパリに行っている間彼女を待っているのは今を思えばなんて簡単なことだったのだろう。
待たせることがこんなに辛いことなんて今まで感じたことがなかった。
(揺、一体僕は君に何をしてあげたらいいんだ。夕べからずっと考えているのにまだ答えが見つからないよ。・・・)
ビョンホンもまたおにぎりをほおばりながら揺のことばかり考えていた。
このときビョンホンの口にご飯粒のひとつでも付いたなら・・それを揺が笑って自分の口に運んだならば二人のすれ違いなんて一瞬に消えてなくなったのかも知れない。
しかし、綺麗に平らげられたお弁当箱にはご飯粒のひとつも残っていなかった。

公園の中歩きながらいつになく沈黙が続いた。
揺が言った。
「歌・・・・相変わらず上手かったね。みんなも感動してたよ。」
「相変わらずって揺、他にどこで聴いたの?」
「初めて会ったとき、彰介の家で歌ってたでしょ。あの時キッチンから覗いたの。何だか貴方キラキラ光ってて・・・初対面だったのにオーラみたいなものを感じてビックリしたのを覚えてる。」
揺は懐かしそうに言った。
「何だかずるいな。揺ばっかり聴いてて。俺は揺の歌聴いたことないのに。今度聴かせろよ。歌」
「え~。だって貴方みたいに上手じゃないわよ。」
「いいよ。ヘタクソでも」
「じゃ、今度ね」
「うん。約束だ。」
今度っていつになるのだろう。
二人は同じことを思っていた。
「そろそろ時間だね。ホテルまで送るよ。」
「ああ。」
ビョンホンと揺は家に戻りカングーに乗るとスタッフの待つホテルへと向かった。
車の中運転する揺の横顔を見ながらビョンホンは夕べ歌った「約束」の歌詞を思い出していた。
今の揺に対する自分の気持ちはそれに近いもののように感じていた。
満たしてあげられないのなら手放すのも愛なのかも知れない。
夕べ抱いたささやかな期待はいつのまにか光を失っていた。
このまま揺を手放していいのか・・・彼は迷っていた。


運転席の揺は揺で今日一日ずっと考えていたことに結論をだそうとしていた。
自分がいつになく無口になっていることに気がつかないほど一日中一生懸命考えていた。
そう。
彼が仕事に没頭している時は黙って待つと決めていた。
彼に42,000人のファンがいようが10万人のファンがいようがその人たちの愛も込みこみで彼を愛し続けると決めていた。
たとえ寂しくても辛くても彼を信じて彼をいつも感じていれば我慢できると思っていたじゃない。
いざ、目の前に42000人いたからってビビッてどうするの。
42000人のファンはあの人の幸せを願っているんだから私と同じじゃない。
仲間よ仲間。
彼を独占しようなんて思うから辛くなるのよ。
そうそう。
寂しくなるのが嫌だったからブルキナファソに行くんだった。
きっと忙しくなれば寂しさなんてどこかに飛んでいくに違いない。
だからだから彼を笑顔で送り出そう。
結局、よく考えれば前から思っていた結論と同じだったことが妙におかしかった。
自分は一日何に怯えていたんだろう。まあ、それくらいあの光景はショッキングだったってことか・・。

カングーがホテルに着いたとき二人の想いは完全にすれ違っていた。
「もう、時間だね。ほら、スタッフみんな待ってるから。行って」
すっかり割り切っていた揺は涙ぐむこともなく明るく言った。
「うん。アフリカへの出発はいつ?」
「今月の8日」
「そっか、気をつけて行けよ」
「うん」
揺の明るさが自分を心配させないためのカラ元気なのだと思うとビョンホンは辛くて仕方がなかった。
「じゃ、行くよ。」
「元気でね。」
ビョンホンはいたたまれず揺を抱きしめた。
彼女を抱きしめるのはもう最後かもしれない。
そんな思いのまま彼は韓国へ帰って行った。
彼の後ろ姿を見ながら揺はいつもと違う彼を感じていた。


© Rakuten Group, Inc.